sábado, 2 de febrero de 2013

アレフ (versión japonesa)

やっとこの物語の筆舌につくし難い核心に到達したが、作家としてのわたしの
絶望がここに始まるのである。あらゆる言語は、伝達者と被伝達者とが同じ過
去を共有していることを前提にして使用される、記号の集合体としてのアルフ
ァベットである。とするならばあの無限のアレフを、わたしの怯弱な精神がほ
とんど記憶にとどめていないアレフを、いかにして他人に伝達することが可能
であろうか? こういう場合神秘主義者たちは象徴をふんだんに用いる。たとえ
ば神性を表示するために、あるペルシャ人は、見方によればあらゆる鳥である
ような鳥について語り、アラヌス・デ・インスリス 1 は、その中心は随所にある
が円周はどこにもない球について語り、またエゼキエル 2 は、同時に東西南北の
四方に向くことのできる四つの顔をもった天使について語った。(これらは突
飛な類比のようであるが無駄ではない、アレフとくらか関連があるのだから
。)おそらく神々はわたしにもこれらと同類の比喩をお許しになるだろうが、
その記述は文学や虚構によって不純なものにならざるをえないだろう。実際わ
たしがしようとしていることは不可能なのである。というのは無限に連なるも
のの一つ一つをいくら列挙したところで、所詮それは微小な一部分にすぎない
からである。あの巨大な一瞬間に、わたしは何百万もの愉快な、あるいはおぞ
ましい行為を見たが、それからすべてが、一つとして重なり合うことも透視的
に見えることもなく、空間の同一点を占めているという事実ほど、わたしを驚
嘆させたものはなかった。わたしが眼にしたものは同時併存的であった。しか
し次に書き写すものは継起的なものだからである。ともかく、できるだけ記憶
を呼び戻してみよう。
十九段目の踏板の裏面の右方に、わたしは目眩いばかりに輝いている玉虫色の
小球体を見た。初めのうち、球体自体が旋回しているものとばかり思っていた
が、やがてその運動は球体内で展開されている、さまざまな眩惑的光景の織り
なす幻覚であることがわかった。アレフの直径はおそらく二、三センチメート
ルにすぎなかったが、そこに全宇宙が、縮小されることもなく、そっくりその
まま包含されていた。個々の事物(たとえば鏡の表面)はそれ自体無限であった
、というのは、わたしはそれを宇宙のあらゆる地点からはっきり見ていたから
である。わたしは芋を洗うような海水浴場を見た。曙光と夕日を見た。合衆国
の群衆を見た。黒いピラミッドの中央で白金色に輝く蜘蛛の巣を見た。壊れた
迷官を見たが、それはロンドンであった。まるで鏡をのぞきこむように、自身
の姿を見ようとしてわたしをのぞいている無数の目を間近に見た。この世のあ

りとある鏡を見たがどこにもわたしは映っていなかった。ソレル街 3 に面した民
家の裏庭が、三十年前フライ・ベントス 4 の、とある家の玄関で見たのと同じ舗
石によって敷かれているのに気づいた。山をなすふどうの房、白雪、タバコ、
鉱脈、水蒸気を見た。赤道直下のなだらかに隆起する砂漠とその砂の一粒一粒
を見た。インヴァネス 5 においては決して忘れえぬ一人の女を、彼女の振り乱し
た髪を、驕慢ではあるが魅惑的な姿態をそしてその乳房に影を落す癌細胞を見
た。歩道の、かつて街路樹の生えていたところに、乾いた土が輪状にもり上が
っているのを見た。アドロゲ 6 の別荘で、イギリスの学者フィレモン・ホランド
7 の手になるプリーニウス 8 の最初の英訳本を、そして各ページの個々の文字を
同時に見た。(子供のころ、本が閉じておかれるのに、一夜あけても沢山の文
字が混合して融解してしまわないのをいつも不思議に思ったものだ。) ベンガ
ル地方に咲くバラの色を反映するかのようなケレタロ 9 の夕焼けを見た。誰もい
ないわたしの寝室を見た。アルクマール 10 のある書斎では地球儀を見たが、それ
は二つの鏡の間に置かれて無限にその数を増加させていた。たてがみを靡かせ
ながら、しののめのカスピ海の浜辺を疾駆する数頭の馬を見た。しなやかな骨
格の手を見た。戦争を生き抜き、絵葉書を書く兵士たちの姿を見た。マーザピ
ュール 11 のある陳列棚に一組のスペインのトランプを見た。温実の地面に斜め
に走る羊歯の影を見た。虎、ビストンを、野牛を、波を、そして軍隊を見た。
地上にうごめく蟻を一匹残らず見た。ペルシャの天体観測儀を見た。机の引出
しのなかに、(その筆跡を認めて震撼したのだが)ベアトリスがカルロス・ア
ルヘンティーノに宛てた、長い、しかも信じられないほど卑猥な手紙を何通も
見た。チャカリータ 12 においては、わが畏敬せる墓標を見た。かつてはベアト
リス・ビテルボを優雅に構成していたものが骨くずとなって、醜悪に腐朽して
いるのを見た。循環するどす黒いわたしの血液を見た。愛の交嬢と死の変様を
見た。あらゆる角度からアレフを見、アレフのなかに地球を、そして地球のな
かにアレフを、さらにまたアレフの中に地球を見た。わたし自身の顔と五臓六
腑を見た……要するにわたしは、あなたの顔を見たのだ。そして目眩をおぼえ
泣いた。その名は広く知られているものの、いまだかつて誰も目撃したことの
ない密やかな空想上の対象――考えもおよばない宇宙を見てしまったからだ。


1 リルのアラン、一一二八—一二〇二、フランスの神学者
2 紀元前六紀の天予言者
3 ブエノスアイレスの市街
4 ウルグワイ、リオ・ネグロ州の都市
5 イギリス、スコットランド北都の都市
6 ブエノスアイレス近郊の避暑地
7 一五五二—一六三七『博物誌』の英訳者
8 ローマの政治家、学者、二三—七九、『博物誌』の著者
9 メキシコの都市
10 オランダの港町
11 インド南東の都市名
12 ブエノスアイレスにある古い墓地


『ボルヘスとわたし―自撰短篇集』ホルヘ・ルイス ボルヘス‎ (著),‎ 牛島 信
明 (翻訳) 東京:筑摩書房(2003)25-28
Borges y yo. Antología seleccionada. Jorge Luis Borges (autor), Nobuaki
Ushijima (traductor). Tokio: Chikumashobu (2003). 25-28.

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